インターネットを徘徊していると常々気になる著作権。ブログを始めてから特に気になります。
2015年10月5日、かねてからのTPP交渉がまとまったようで、著作権法が非親告罪化される見込みのようです。
著作権と転載・引用
以前のエントリー「ブログに投稿する画像の著作権、Creative Commons」で書きましたが、著作権法には違反にならないための著作物の利用方法が定められています。
著作権法
著作権法について、
著作権法(昭和四十五年五月六日法律第四十八号)
最終改正:平成二七年六月二四日法律第四六号
を利用しています。今後、TPP関連で改訂が予想されますので変わっていくと予想されます。
転載
著作権法上で「転載」について記載があるのは2箇所で、
第三十二条ー2 国若しくは地方公共団体の機関、独立行政法人又は地方独立行政法人が一般に周知させることを目的として作成し、その著作の名義の下に公表する広報資料、調査統計資料、報告書その他これらに類する著作物は、説明の材料として新聞紙、雑誌その他の刊行物に転載することができる。ただし、これを禁止する旨の表示がある場合は、この限りでない。
第三十九条 新聞紙又は雑誌に掲載して発行された政治上、経済上又は社会上の時事問題に関する論説(学術的な性質を有するものを除く。)は、他の新聞紙若しくは雑誌に転載し、又は放送し、若しくは有線放送し、若しくは当該放送を受信して同時に専ら当該放送に係る放送対象地域において受信されることを目的として自動公衆送信(送信可能化のうち、公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信装置に情報を入力することによるものを含む。)を行うことができる。ただし、これらの利用を禁止する旨の表示がある場合は、この限りでない。
となっています。ちなみに、法律条文には著作権は発生しません。
他にも、報道目的に利用する場合や、政治活動の演説・裁判内容などは利用できるようです。
(時事問題に関する論説の転載等)第三十九条 新聞紙又は雑誌に掲載して発行された政治上、経済上又は社会上の時事問題に関する論説(学術的な性質を有するものを除く。)は、他の新聞紙若しくは雑誌に転載し、又は放送し、若しくは有線放送し、若しくは当該放送を受信して同時に専ら当該放送に係る放送対象地域において受信されることを目的として自動公衆送信(送信可能化のうち、公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信装置に情報を入力することによるものを含む。)を行うことができる。ただし、これらの利用を禁止する旨の表示がある場合は、この限りでない。2 前項の規定により放送され、若しくは有線放送され、又は自動公衆送信される論説は、受信装置を用いて公に伝達することができる。(政治上の演説等の利用)第四十条 公開して行われた政治上の演説又は陳述及び裁判手続(行政庁の行う審判その他裁判に準ずる手続を含む。第四十二条第一項において同じ。)における公開の陳述は、同一の著作者のものを編集して利用する場合を除き、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。2 国若しくは地方公共団体の機関、独立行政法人又は地方独立行政法人において行われた公開の演説又は陳述は、前項の規定によるものを除き、報道の目的上正当と認められる場合には、新聞紙若しくは雑誌に掲載し、又は放送し、若しくは有線放送し、若しくは当該放送を受信して同時に専ら当該放送に係る放送対象地域において受信されることを目的として自動公衆送信(送信可能化のうち、公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信装置に情報を入力することによるものを含む。)を行うことができる。3 前項の規定により放送され、若しくは有線放送され、又は自動公衆送信される演説又は陳述は、受信装置を用いて公に伝達することができる。(時事の事件の報道のための利用)第四十一条 写真、映画、放送その他の方法によつて時事の事件を報道する場合には、当該事件を構成し、又は当該事件の過程において見られ、若しくは聞かれる著作物は、報道の目的上正当な範囲内において、複製し、及び当該事件の報道に伴つて利用することができる。
引用
一方の引用は、あちこちで多く行われているものです。著作権法第32条に規定されています。
第三十二条 公表された著作物は、引用して利用することができる。この場合において、その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。
引用になる条件は、文化庁のウェブサイト「著作権教材 用語集」には
著作権の制限規定の一つです(第32条)。 例えば学術論文を創作する際に自説を補強等するために、自分の著作物の中に、公表された他人の著作物を掲載する行為をいいます。
引用と言えるためには、
- 引用する資料等は既に公表されているものであること
- 「公正な慣行」に合致すること
- 報道、批評、研究などのための「正当な範囲内」であること
- 引用部分とそれ以外の部分の「主従関係」が明確であること
- カギ括弧などにより「引用部分」が明確になっていること
- 引用を行う必然性があること
- 出所の明示が必要なこと(複製以外はその慣行があるとき)(第48条)
の要件を満たすことが必要です(第32条第1項)。
また、国、地方公共団体の機関、独立行政法人等が作成する「広報資料」、「調査統計資料」、「報告書」等の著作物については、
- 一般への周知を目的とした資料であること
- 行政機関等の著作名義の下に公表した資料であること
- 説明の材料として転載すること
- 「転載禁止」などの表示がないこと
- 出所の明示が必要なこと(複製以外はその慣行があるとき)(第48条)
の要件を満たした場合は、刊行物への大幅な転載が認められています(第32条第2項)。
とされています。
よく問題にされているのは、正当な引用になるための条件のうち、
- 正当な範囲内であること
- 主従関係が明白であること
- 引用の必然性があること
ですが、
- 出所の明示があること
も今後問題になってきそうな気がします。出所の表示は、著作権法第四十八条に
著作物の出所を、その複製又は利用の態様に応じ合理的と認められる方法及び程度により、明示しなければならない。
と規定されていますが、詳しく見ていくとかなり曖昧な部分があります。
(出所の明示)
第四十八条 次の各号に掲げる場合には、当該各号に規定する著作物の出所を、その複製又は利用の態様に応じ合理的と認められる方法及び程度により、明示しなければならない。
一 第三十二条、第三十三条第一項(同条第四項において準用する場合を含む。)、第三十三条の二第一項、第三十七条第一項、第四十二条又は第四十七条の規定により著作物を複製する場合
二 第三十四条第一項、第三十七条第三項、第三十七条の二、第三十九条第一項、第四十条第一項若しくは第二項又は第四十七条の二の規定により著作物を利用する場合
三 第三十二条の規定により著作物を複製以外の方法により利用する場合又は第三十五条、第三十六条第一項、第三十八条第一項、第四十一条若しくは第四十六条の規定により著作物を利用する場合において、その出所を明示する慣行があるとき。
つまり、転載の場合には明示する必要があるものの、通常の引用(第三十二条の規定により著作物を複製以外の方法により利用する場合)には、出所を明示する慣行があるときに明示しないと、
第百二十二条 第四十八条又は第百二条第二項の規定に違反した者は、五十万円以下の罰金に処する。
第百二十二条の罰則規定に抵触してしまいます。
弁護士の方のウェブサイト「著作権法逐条解説 第48条出所の明示」を見ると、私の素人解釈が違っているのかもしれません。いずれにしても明示しておけば問題は避けられます。
親告罪・非親告罪
TPPで話題になっているのは、著作権が著作者の死後70年になりそうだということと、非親告罪化、さらに著作権侵害の損害賠償が簡単に請求できるようになりそう(法定損害賠償)だ、という3点です。
このうち、非親告罪化というところを見ていきます。
著作権の場合、親告罪では刑事罰(罰金など)を与えるためには「著作権者からの親告(被害者が自ら告訴する)」が必要になります。
非親告罪となっているのは、死後の人格的利益の保護侵害(第120条)、技術的保護手段を回避する装置・プログラムの公衆譲渡等の罪(第120条の2第1号及び第2号)、出所明示の義務違反(第122条)、著作者名を偽る罪(第121条)である。(出典:「著作権法における親告罪の在り方に関する論点まとめ(案)」文部科学省ウェブサイト)
は非親告罪です。(資料タイトルは「文化審議会 著作権分科会 法制問題小委員会(第5回)議事録・配付資料 [資料3]-文部科学省」となっていますが、何年の作成か不明です。)
非親告罪化
インターネットを見ていると、非親告罪化された場合に取り立てて新たに問題になるものはそれほど多くなさそうです。ただし、著作権者以外からの告訴で警察が動くことができるので既に著作権法違反をしている場合にはリスクが飛躍的に高まります。
逆に、同人誌やパロディに対して刑事告発される可能性が多く指摘されています。ただ、非親告罪化で問題が起こることはあるにしても、非親告罪化で主に摘発されそうなのは「海賊版」で、明確に著作権法違反と分かるものだろうと思われます。
知財関係の訴訟が多いアメリカでも、二次著作を認めているものもあります。
膨大にある著作物のうち、告発されたものをいちいち著作権者が二次著作を認めているかどうか確認するかというと怪しいと思います。(摘発されても私は関知いたしません)
法定損害賠償
これから日本に導入される見込みの制度のうち、非親告罪化よりも影響が大きそうなのが民事上の責任を問う「法定損害賠償」です。
上記リンクはTPPが交渉入りする前の2011年に書かれた記事ですが、今まで見つけた中で一番分かりやすい説明でした。
従来の日本での著作権訴訟では、実害を原告側(著作権者)が算定する必要があり、賠償額もそれに応じた額にとどまることが多かったのに対して、アメリカ型の訴訟では故意に著作権侵害をしていた場合には高額の賠償命令が出ているらしいです。
アメリカ型の損害賠償の算定に使われているのが「法定損害賠償」で、日本で導入された際に賠償額がどの程度になるかによりますが、訴訟が増えると考えられます。
パロディなどの二次著作、ブログなどの記事、SNSへの投稿(特に著作物の写真など・・)は、今後気をつけたほうが良いと思いますが、「悪質」でなければそれほど賠償額も高くなさそうなので、大抵は大丈夫だと思いますが、導入されて見ないと何ともわかりません。
出所の明示
現行の著作権法第48条と第122条に規定されている「出所の明示」ですが、今のところインターネットのウェブサイトやブログ記事、SNSで「出所を明示する慣行」はあると言えるのでしょうか?
非常に微妙なラインだと思いますが、そのうち判例で示されるのかもしれません。
ウェブ上では、
と平成14年(2002年)のインターネットに関係ないものしか見つけられませんでした。
難しい用語と言い回しのオンパレードで何がなんだかさっぱり分かりませんが、「出所を明示するために作られた著作権法第48条の規定が原因で出所の明示が慣行化しないとしたら皮肉だ」と最後に言っているような気がします。
いずれ、「出所の明示が慣行化」したと見做された時が来たら、既に公開しているウェブサイトやブログ、SNSの書き込みをすべて削除・修正しないと刑事罰に問われてしまう場合が考えられます。
ということで、適正な引用と出所の明示を常に心がけるようにしています。
Facebook Open Graph、Twitterカード、はてなブログカード
記事の共有用プロトコールがあります。

として記事にしているFacebookが開発したOpen Graph Protocol、Twitterが設定したTwitter Cardがそれです。
これを利用すると、ツイッターやフェイスブックで記事を共有した場合に、サイトの運営者が設定した画像・記述が一緒に現れます。多くのブログで使われている「はてなのブログカード」はOpen Graphの情報を取得して作られています。
通常は、代表画像が一緒に表示されて見栄えを良くしています。テキスト以外の情報も出てくるので心配になりますが、Open GraphやTwitter Cardを利用した画像やビデオの転載はおそらく問題ないという気がします。(例によってトラブルになっても責任は負えません)
その画像はホットリンクと言う形で元のウェブサイトから毎回読み込まれる形になることもありますが、Facebook、Twitter、はてなのサービスを使う場合にはそれらのサーバーにキャッシュされ、キャッシュが提供されます。ホットリンク(英語圏では単にリンク)は嫌われる傾向があります。
特にOpen Graphの場合には、ウェブサイトの作成者が明示的に他のサイトで表示させるために設置したものですから、「画像・ビデオ・音楽を転載」という形になっても問題ないと思います。TwitterもTwitter Cardの設定がない場合にはOpen Graphを使いますし、はてなブログカードもOpen Graphです。
Twitter Cardの場合は、Twitterで使われることを想定して設定していますので、Twitter Cardで設定された画像を他のサイトに転載した場合には、トラブルの元に成り得ます。現実的には、Twitter Cardが設定されていてOpen Graphがないのを見たことがないので、問題にはならないと思います。
Open GraphやTwitter Cardでは、テキスト量に制限があって全文転載は起こりにくいです。なので通常は引用の範囲内に収まると思われます。
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